ここ数年で一気に知名度を上げた、「スペシャルティコーヒー」。
言葉は知っていても、どういうコーヒーがスペシャルティコーヒーなのかご存じない方も多いかと思います。
当店でもスペシャルティコーヒーを100%使っているため、改めてここでも触れてみます。
ザックリと、ナタで竹を割ったように説明すると、「美味しいコーヒーを淹れられる豆」です。
コーヒーは農産物ですので、その出来は様々です。
コーヒー豆の大小、収穫時期の新古、虫喰い、中には豆にした段階で他の豆に当たって欠けたり、
そもそも豆の中の栄養(エキス)が多かったり、少なかったりします。
その中で良い出来の豆だけをピックアップして、厳密な検査を通過したものだけを「スペシャルティコーヒー」と言います。
例えば、私が来週あたりコーヒーで有名なブルーマウンテンのどこかに土地を買って、
コーヒー栽培を始めたとします。
当然、コーヒー豆の栽培の知識は無いので、たとえコーヒーの栽培ができたとしても、豆の品質は高くありません。
でも、ブルーマウンテンで作っているので、「ブルーマウンテンコーヒー」ということはできます。
普通のコーヒーを作るよりブランド力があるため、高価格で売れて私は大喜びです。
が、それほど高くない品質のコーヒーを高価格で買わされる消費者は、美味しくないので当然ガッカリします。
消費者は、「吉江農園のコーヒーは美味しくないので、次は買うのはやめよう」となります。
私はせっかくブルーマウンテンに土地を買ったのにコーヒーが売れなくなり、困ってしまいます。
ところで、ブルーマウンテンにも農協はあります。世界中どこでも必ず農協はあります。
ブルーマウンテンの農協は、「ブルーマウンテン」というブランドがついたコーヒーがたくさん売れればいいな、と思っています。
ですが、吉江農園で作られたコーヒー豆は品質が良くないので、その分「ブルーマウンテンブランドのコーヒー」の販売量が少なくなることになります。
農協は、吉江農園に対して「もっと品質の良いコーヒーを作れ!」と言います。
が、私はコーヒー豆の栽培に対して素人なので、そんなにすぐには高品質な豆は作れません。
ですが、吉江農園の豆も「ブルーマウンテン」です。
ということで、「いい農園の豆も、吉江農園の豆も混ぜて『ブルーマウンテン』として売ろう!」ということになります。これなら、農協は豆の販売量を減らさずにすみ、私もコーヒーが売れて喜びます。
これが、「◯◯産」のコーヒーです。
豆の品質にばらつきがあるものの、ある一定の味の傾向を保って出荷することができます。
ここで、もう一人の農園主に登場してもらいます。
コーヒー栽培の知識も経験も豊富にある、「萱津農園(仮名)」です。
萱津農園の萱津さんは、自分の知識と経験をフルに注ぎ込んだ自分のコーヒーに絶対の自信があります。
「うちのコーヒー豆なら、農協に卸すよりも絶対高く売れる!」ことに確信を持っています。
ですので、農協に卸すのではなく、もっと高く買ってくれる業者に直接売ろうと考えます。
業者も、農協より品質の高い豆を仕入れられれば、お客さんに喜んでもらえるため喜んで取引します。
これが、「農園指定」のコーヒーです。
ですが、最初に言ったとおり、コーヒーは農産物なので、どうしても品質にばらつきがあります。
品質のばらつきは、コーヒーを焙煎したときの火の通り方にもばらつきが出てしまうため、味が安定しない原因になります。
コーヒー豆の分別は、基本的にはピッカーと言われる作業人の手で行われます。
あまりにもわかりやすい悪い豆はこの時点で取り除かれますが、ピッカー次第で品質が変わってしまいます。
熟練しており、かつ厳しい心を持ったピッカーがいれば、良い豆だけをセレクトすることができるようになります。
近所の子供をピッカーとして日雇いで雇えば、ばらつきがあっても「まぁこのくらいいいか」となってしまいますので…
熟練した高い技術を持ったピッカーは、やはりそれなりの待遇の良い農園で働きたい!と思います。
逆に言えば、安い賃金でたくさん働かせるブラック農園には、良い技術を持ったピッカーは育ちにくいということになります。
ということで、まずスペシャルティコーヒーとは、
「高いコーヒー豆栽培技術と経験による裏打ちのある農園」にて栽培され、
「高い技術を持ったピッカーをきちんと雇える」ような経営をしており、
「ピッカーによる厳しい選別眼により選ばれた豆」ということです。
ここまででもだいぶ長くなってしまいましたが、実はまだ片手落ちです。
上記のような厳密な過程を経て出荷されたコーヒー豆ですが、
「それでは誰が『これはスペシャルティコーヒーと言っていい高品質の豆だね』と決めるのか」が問題になります。
言ったもん勝ちでは、消費者は納得しません。
実は、スペシャルティコーヒーを認定する機関があり、ここで更に厳密な検査をされ、
そしてはじめて「スペシャルティコーヒー」として認定されるのです。
この機関は、スペシャルティコーヒーと名の付いたコーヒーが正当に評価されなければ存在意義がなくなってしまうので、選別は必死です。
海外でよくあるワイロや談合は、一切通用しません。
コーヒー豆が主要輸出品の国にとって、「スペシャルティコーヒーがマズい」となったら国の一大事になるからです。
つまりスペシャルティコーヒーとは、
「高いコーヒー豆栽培技術と経験による裏打ちのある農園」にて栽培され、
「高い技術を持ったピッカーをきちんと雇える」ような経営をしており、
「ピッカーによる厳しい選別眼により選ばれた豆」であり、
さらに「品質がある一定以下だったら容赦なく切り捨てる厳しい機関のお眼鏡にかなった豆」のことをいいます。
ちなみに、当店が仕入れている「堀口珈琲」では、
自社から海外の農園に出向き、農園の気候や状態をみるのはもちろん、
農園主の人柄や知識・コーヒーに対する情熱、作業員の技術、作業員に対する待遇、みんな明るい表情で作業しているか、というところまで見て判断するようです。
一杯のコーヒーを提供するまでには、これから焙煎と抽出という長い過程が必要になるのですが、
今日は文章が長くなりすぎてしまったので、また今度です。
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